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「ここがその公園です、いつもこの道を通るときに聞こえてくるんです」
秋華がそう言い、公園の中に伸びる道を指さす。そして歩いていく彼女の後ろを俺と寛はついていく。その歩き方はいつも見慣れているといった感じで不自然さはない。
すると寛が俺に聞こえる声で聞いてくる。
「なあ槙田、あの秋華さんの話って本当なのかよ?ちょっとにわかには信じがたいと言うか……」
「あの様子は嘘をついているようには見えなかった。それにこういう手の奴は最悪、被害者の命も危うくなる可能性もあるからな。あと、……事件自体も奇妙な感じがしてならないし」
そうか、と返すと寛は黙る。俺も黙ると秋華の後ろ姿を見る。どうやら、今回もなかなかに厄介な事になりそうだ。
彼女、椎名秋華はストーカー被害にあっているらしい。毎日仕事帰りにこの公園を通る際、いつも足音が聞こえてくるのだそうだ。
聞こえてきたのは数か月前から、それは彼女の後ろからつけているように響いてきて、公園から出ると消えるのだそうだ。しかもその音はどこから聞こえてくるのかもわからず、その足音の主もどれだけ探しても見つからないのだそうだ。
公園は暗がりが多く、もしかしたら物陰に隠れているかもしれない。そう思った彼女はある日、帰り道を普通に帰らず途中で茂みに隠れ相手の姿を見ようと思った。
しかし姿は見えなかった。誰一人としていなかったのだ。しかしそれにも関わらず”跫は聞こえた”のだ。
怖くなった彼女は警察に相談した。しかしなかなか信用してもらえず、その中で柴田警部を紹介してもらったらしい。
(ストーカー被害、だけでもかなり質が悪いのに姿の見えない足音だけの犯人か……。とりあえず彼女の話を信じて犯人捜しをするしかないな。しかし、どうも今回の事件は”よく分からない”……)
俺がそんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか公園の中央部に来ていた。噴水が水を噴き上げ、周りには木々が並ぶ。ベンチに座ったり散歩している人がちらほら見える。
「ずいぶん静かなところですね……」
「ええ、私も時々来たりするんですが、とても静かでリラックスできるんです」
彼女はそう言うと、周りを見回す。どうやらここは彼女にとってお気に入りの場所のようだ。
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