第3章 夢なら覚めて、覚めないで

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昨日も夫は酔って暴れた。 (何が気に入らないんだか、会社で嫌な事が有っても私に当たるんだから…ったく、仕事を家庭に持ち込まないでよね) (大声で喚き散らして、物を投げつけるし、テーブルの上はひっくり返すし…若葉は2階に居たけど、精神衛生上良くないわよね) こんな家庭で、よくもまあ、あんなに素直に育ってくれたもんだ。 と双葉は思った。 (女の子は、良く「大人になったらお父さんみたいな人と結婚したい」なんて言うらしいけど…) 「やめて」 (あんなのと結婚したいだなんて、思ってないわよ) 若葉だけには幸せになってほしい。 父親のような、あんな男に似た男だけは選ばないでほしいと思った。 (まだ彼氏は居ないみたいだけどね) (出来たら、黙ってたって私にはわかるわよ) (母親だもの) 「さーて、今日は、久し振りに三津谷君の店で友美と呑むのよ」 【居酒屋】 「今日は、呑むわよー」 「いらっしゃい。あれ?双葉…何かちょっと感じが変わったな」 「そう?」 (どう変わったのよ?) 髪を切って、化粧品を買い換えて、服も買って、コラーゲンだって買い込んだんだから、少しぐらいは変わってくれないとねえ、と思った。 (そう、コラーゲン) (効果出てるかな?) 「何かこう…女っぽくなったって言うか…」 (女っぽく?) 「何よそれ….それじゃ、今まで女じゃなかったみたいじゃない」 「悪りい、悪りい、そういう意味じゃなくて…」 「どういう意味よ」 (そりゃ、子供が出来てからは、女は捨てて母親に徹してたわよ) それで気がつけば15年。 すっかりオバサンになってしまった。 そう思った。 (でも、自分の事オバサンて言わない方が良いって書いて有ったな…) 「何かさ、若くなったな、お前。うん、綺麗になったよ」 「え?やだ何言ってるのよ」 (コラーゲンの効果かしら?セールストークよね、そうに決まってる) そうは思っても、嬉しかった。 (まあ、三津谷君に言われてもね…こーーーんなに、小っちゃい時から友達なんだから) 彼を男として意識した事が無かった。 今でも幼い頃と同じ気持ちだった。
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