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あれは俺が小学生の頃だった。
懐かしい記憶を辿れば、無邪気だった少年の自分が、猿みたいに木登りをしている。
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「しょうちゃん!!危ないよー!!この木は折れちゃうかもしれないからって先生が言ってたよ!!」
いつも大人しくて俺の後ろばかりついてくる『ひろき』はなんでも怖がる。だから、小5になっても木登りも下から見上げてばかりだ。
色が白くて、細っこくて、本を読むのが大好きで、ニコリと笑うと女の子だって顔負けなきれいな男の子だった。何でもきちんとして、いつもきれいな靴にきれいな洋服だった。
「平気だって、お前臆病者だから悔しいんだろ?ビビリだなー!ひろき!」
せせら笑いながら、右の握りこぶしをくっと胸の前で握りなおして悔しそうな彼を下に見ながら、からかうのをやめて木をおりた。
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ひろきが小学2年の秋、転校生としてやってきて丘の上の『お屋敷』の住人だと聞いてからかい半分、興味半分でクラスのみんなは、かまい始めた。
もじもじと女の子のように返事も上手く出来ない都会から来たらしい転校生に、ひと月もするとみんなは飽きていった。
「お前って、坊ちゃんか?!」
教室の自分の席にちょこんと座って、昼休みに誰とも遊ばずに読書を決め込む都会っ子に俺は話しかけてみた。
「ううん。普通だよ」
もじもじする様を予想していたが、案外あっさりと返事が来た。
読んでいた本から目を上げて、ぱちぱちと瞬きする睫毛はきれいだった。
「あの、丘の上のお屋敷に住んでるんだろ?!坊ちゃんじゃないか?!」
「ん?あそこじゃないよ。みんなにも言ったけど。隣の家だよ。お屋敷は誰も住んでないんだね」
知らないのか?とでも言いたそうにクスクスと笑い、机から俺を見上げた。
「お屋敷の隣のおうちがおじいちゃんちなんだ。お母さんと越してきたんだ」
今思えば、少し大人びたようなその笑みは合点がいく。
両親が離婚して、この町に母親と祖父のもとに帰ってきたのだった。ひろきの母親にとっては故郷だ。知った顔もたくさんいただろう。
子供とは不思議だ。そんな会話しかしなくても、通学路が一緒だったからか……程なく俺達は仲良くなった。
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