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うちは両親とも同じ町の人間だ、ひろきの母親のことも知っていた。ひろきの母親は、うちの両親とはひとつ違いで年下だった。
両親はそれを知っていて、俺がそれなりの歳になるまで何も話さなかった。
うちは丘の下にあった。丘の上のお屋敷の隣――ひろきの家は坂を上って10分ほどだ。
幼いながらも知っていたのは、ひろきたちが東京から越してきた事、そんなにお金には困っていないにしろ、母親が隣町で遅くまで働きに出ている事だった。そして、その祖父は厳しい人だった。
母に頼まれておすそ分けの「肉じゃが」を持って坂を登って届けに行ったときだった。
「このばかものが!!」
地を這うような、地鳴りみたいなその声と何かをはたく音がした。
少し走って、ひろきの家を覗くと、庭でひろきが倒れていた。
その傍に仁王立ちの杖を突いた老人がいて、恐ろしくて近づけなかった。
真冬の庭。からからと落ち葉の転がる音。
地べたに這いつくばった友達に俺は何も出来ずにぐるりと回って、玄関を開けて、たたきに「肉じゃが」を置いて逃げた。
その晩は怖くて、逃げた自分も許せなくて眠れなかった。
次の朝、気まずさで顔を合わせるのを避けていたのに、ひろきは何事もなかったかのように寄って来た。
「しょうちゃん。肉じゃがおいしかったよ。お母さんによろしくっておじいちゃんが」
そう言ってタッパーを返してきた。
けして、何か含んだような様子はなかったが、心で「ごめん」と謝っていた自分がいた。
その後、段々登下校を一緒にするようになって、学年が上がり、クラスが変わっても一緒にいた。
大人しくて、優しいひろきは女の子からもいつからか「男子」扱いされなくなった。
「ひろくんだったらいいか」「ひろくんも一緒にどう?」
そう女子達が話してるのが聞こえた事がある。
男子っぽくないのだ。
小学4年の頃には「おかま」と言われてからかわれたが、俺が怒って蹴散らした。
「しょうちゃん。ありがとう」
潤んだ目でお礼を言われて、顔が熱くなった。自分が照れてると気付いて、俺がおかしいのだと、変な感覚を頭から消し去ったのを覚えている。
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