4人が本棚に入れています
本棚に追加
――ちょうど、このくらいの時期だったかな。
あの日見た夕日は、目を閉じれば思い出せる。
それ程に鮮やかだったのだ。
あんなに笑ってるひろきを見たのも初めてで……。
気がついてやれなかったんだ。ひろきの秘密に。
子供だったから、きっと……。
それは、ひろきのおじいさんが亡くなって知ったのだった。
――――――――
――――
中学に上がって、ひろきがますます内公的になった。
女子達もさすがに『男子』であるひろきとは距離を置くようになった。ひろきですら、自分への違和感を感じていたのだろう。
中一の夏にプールに行こうと誘った時だった。
「あちーいから、プール行こうぜ!」
そう家まで行って、数人の男友達と誘った。
「ちょっと今日は用事があって……」
そうモゴモゴと返事をして、悲しげに笑った。
僕らを見送る自分の部屋の窓から、手を振るひろきが消え入りそうで怖かった。
――その時気がつけばよかった。
真夏に長袖を着ているひろきの異変に。
よく考えれば制服だって、長袖だった。
夏休みが終わっても、ひろきは真っ白なままで、そこらの女子よりうんと白かった。
華奢で、白い――――それは避暑地のお嬢様みたいで、制服の白シャツがまぶしかった。
中学校と小学校は同じ敷地に立っていた。
何度となく、俺は木登りに小学校の裏庭に行った。
その時、見慣れた人影が校舎に入っていくのが見えた。
詰襟の制服は小学校には似つかわしくない。
後をつけると、見慣れた去年までの教室だった。
……誰もいない夕暮れ。
窓から校庭を眺める姿は、光が当たってさらに細く見えた。
「ひろき……?」
思わず声を掛けていた。
びくっと肩を上げて、恐る恐る振り返ったひろきは俺の顔に安堵したようだった。
「なにしてんだよ」
「うん。今日面談だから。おじいちゃんが先生に会ってるんだ」
そう言うと、窓枠をぎゅっと握り締めて、何かに怯えるように俯いている。
「何かあったのか?じいちゃんと」
その言葉に一瞬反応したが、それから返事も動きもなかった。
「しょうちゃんはさ――――」
やっと開いたひろきの口はそう言いかけて……やめた。
最初のコメントを投稿しよう!