第1章

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――ちょうど、このくらいの時期だったかな。  あの日見た夕日は、目を閉じれば思い出せる。  それ程に鮮やかだったのだ。  あんなに笑ってるひろきを見たのも初めてで……。  気がついてやれなかったんだ。ひろきの秘密に。  子供だったから、きっと……。  それは、ひろきのおじいさんが亡くなって知ったのだった。 ―――――――― ――――  中学に上がって、ひろきがますます内公的になった。  女子達もさすがに『男子』であるひろきとは距離を置くようになった。ひろきですら、自分への違和感を感じていたのだろう。  中一の夏にプールに行こうと誘った時だった。 「あちーいから、プール行こうぜ!」  そう家まで行って、数人の男友達と誘った。 「ちょっと今日は用事があって……」  そうモゴモゴと返事をして、悲しげに笑った。  僕らを見送る自分の部屋の窓から、手を振るひろきが消え入りそうで怖かった。 ――その時気がつけばよかった。  真夏に長袖を着ているひろきの異変に。  よく考えれば制服だって、長袖だった。  夏休みが終わっても、ひろきは真っ白なままで、そこらの女子よりうんと白かった。  華奢で、白い――――それは避暑地のお嬢様みたいで、制服の白シャツがまぶしかった。  中学校と小学校は同じ敷地に立っていた。  何度となく、俺は木登りに小学校の裏庭に行った。  その時、見慣れた人影が校舎に入っていくのが見えた。  詰襟の制服は小学校には似つかわしくない。  後をつけると、見慣れた去年までの教室だった。 ……誰もいない夕暮れ。  窓から校庭を眺める姿は、光が当たってさらに細く見えた。 「ひろき……?」  思わず声を掛けていた。  びくっと肩を上げて、恐る恐る振り返ったひろきは俺の顔に安堵したようだった。 「なにしてんだよ」 「うん。今日面談だから。おじいちゃんが先生に会ってるんだ」  そう言うと、窓枠をぎゅっと握り締めて、何かに怯えるように俯いている。 「何かあったのか?じいちゃんと」  その言葉に一瞬反応したが、それから返事も動きもなかった。   「しょうちゃんはさ――――」  やっと開いたひろきの口はそう言いかけて……やめた。
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