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「なんだよ――っ」
つっかかるように、俺が待てずに聞き返すと顔を上げて、搾り出したみたいに……うめくみたいに……話し出した。
「僕のこと……おかしいと思う?」
突拍子もなさ過ぎて、ただ目を丸くしてポカンと口をあけている俺に、泣きそうな顔をして上目遣いで左腕を怯えたように強い力で掴んでくる。
「何か変なのか?お前。具合でも悪いのか?プールとか行かなかったしっ……」
ひろきは掴んでた手の力を緩めると、俯いて首を何度も横に振る。
「……かんない。わかんないんだよ!」
聞いたことのない野太い声が教室に響いた。
「僕は、おかしいんだ。でも、僕はおかしくないと思ってて……」
そう言ったまま項垂れて、パタパタと水滴が床にこぼれた。
「泣いてんのか?ひろき?!どうしたんだよ!?じいちゃんか?じいちゃんになんかされてんのか?」
「ちが!!」
そう言って首を振りながら、上げた顔がグシャグシャなのが、妙に胸を苦しくさせて、ひろきの頭ごと抱き寄せた。
「しょうちゃん……?」
「男は!泣き顔見せたらいけないんだよ!早く泣き止め!このばか!!」
そこから、堰を切ったようにひろきは泣き出した。上着を着てない俺のシャツはグシャグシャになった。
小学校の教室で、中学生の男同士が抱き合って泣いてるってのは今思えば、おかしいだろうな。
その頃はおかしいなんて思わなかった。
ただ、ひろきが泣いてるから、ほっとけないからそうしてただけだった。
窓から見える、大きな木の葉っぱが時折風にさらわれていくのを目で追いながら、子供でもあやす母親みたいにひろきの背を泣き止むまでなで続けた。
泣き止む頃には、もう日が暮れてぐっと寒くなった。
ひろきがあの木まで俺の上着とカバンを取りに行くと、1人で行ってしまってから、俺は教室にへたり込んで壁に寄りかかって天井を仰いだ。
――――俺、なにしてんだろ――――
思い返して、今更妙に照れくさくなった。
男相手に抱きしめてみたり、ドキッとしたり。
胸の辺りがザワザワして、苦しかった。
「しょうちゃん!あったけど……」
駆け込んできたひろきが見せたのは枯葉まみれの俺の上着だった。
「はたいたんだけど、落ち葉粉々で、汚れちゃったみたい。ごめん」
そう言ってクスッと笑って、カバンと上着を差し出した。
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