プロローグ

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(はぁ……つっうか、なんでこうなったんだよ……) 俺は今、変わり果てた自分を見つめながら、そう呟いた。 “なんで、こうなった”……いやなに、俺の人生には、もはや常套句となった、その台詞。 そう、俺は死んだーー 一週間程前にな。 足の踏み場もない部屋に、あるのはゴミ、ゴミ、ゴミ。 コンビニ弁当の残骸、エロ本、ビニール袋。丸めたティッシュと思しき正体は、ティッシュ代わりに、公衆便所から拝借してきたトイレットペーパーだ。 本来の用途として使用されていたのかさえ疑わしい冷蔵庫には、到底、使う気もないチゲ鍋の素、腐ったバター。ミルクの成分だろうか、二重の層に分離したミルクティーの500mlペットボトルが1本。 そして、もはや、元が何だったのかさえわからない物体が、下段のケースにへばり付いている……。 価値のあるものなど何一つない。そして、その全てに、今はハエがたかっている。 それもコバエなんてもんじゃない。本気のハエだ。 8月ーー。 まさに夏真っ盛りの今、何処ぞのカラオケルームより狭い、俺のワンルームアパートの自室、ユニットバスの便座の上にて、俺は、その人生に幕を閉じた。 あっけなく。 ま、しかも大便をしている最中にってわけだ。 いや、もう一度繰り返すが、はっきり言わせてもらう。 あっけなく、大便をしている最中に、だ。 文字どおり、そんな最期を遂げた俺だが、せめて……そう、せめて万年床の上で…… その生涯を終えるにしても、今じゃ、それを苦にしてならない。 腐敗というのか。 この季節、もう腐り出した自分の肉体、いや、もはや単なるタンパク質の塊であるこの肉塊の、その自然現象を止めることは出来ない。 そう、今俺の目の前で、便座に座りながら、得体の知れない赤黒い液体を鼻の穴から垂れ流し、紫とも黒とも言えない色に変色してドロドロに溶け出している“こいつ”は、言うまでもなく人間では、もうない。 ただ一つ言えることは、間違いなく俺自身だということだけは確かなんだが。 人間だったというだけで、今じゃ人の形をした、ただの塊。 もう二度と動くことなどないまま、いつかはくるだろう“発見者”を待っている。 そう、銅像か、いやむしろ、苔の生えた“地蔵”のように。 そうだ。まさしく、黒く変色した今の俺は、さしずめ、【黒地蔵】とでも言えそうな……。
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