桜散る頃に 桜落つるまでに

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 それはまったく予期しなかった偶然の再会で、私は本当に驚いた。  老画家にしてもそれは同じだったらしく、私の顔を見るなり、目を大きくした。  けれどすぐにその目は細まり、老画家は優しく微笑んできた。  司書の萩尾(はぎお)先生が図書室から出ていったのはそれから少ししてからのこと。  すみません、少しだけと、萩尾先生は老画家には声に出してそう言い、私には、すまない、頼むと、声ではなく目で言ってきて、そうして図書館を出ていった。  老画家を図書室まで案内した萩尾先生がいなくなると、図書室には私と老画家だけとなり、すると老画家は私の傍に来て、『運命』という言葉を口にした。  老画家はそのとき、こうも言った。  桜は1年のうちに2度、紅を纏う、と。
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