桜散る頃に 桜落つるまでに

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 目には目を、歯には歯を。  愛想がないと言われたことに対して、ちらりとそんなことも考えたけれど、報復には報復が返り、結果、嫌な相手との会話が長引くだけだ。  だから、「社会人のくせに挨拶には挨拶を返すっていう常識がないんじゃないですか?」とか、「大人のくせに何を言ったら相手が傷つくか、わかってないんですね」とか、そういう報復言葉は飲み込み、言ったのはこういうこと。  「これでもう3度目のこととはなりますが、まだおわかりになっていただけないようなので、もう一度お伝えしますね松原さん。私は、あなたのおじいさんの最後の絵なんて知りません。おじいさんが送ってきた宅配便の中に入っていたのは手紙だけ。それ以外には何も入っていませんでした」  以上終了、とっとと帰れ――とは、心の中でだけ言うことにし、相手の反応を待てば、それは顕著に表れた。
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