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「どうしたの?」
突然足を停めた愛犬に少女は思わず訊ねた。すると犬は何かを訴えるかのように少女の方を向く。
「あの人がどうかしたの?」
犬が足を停めるきっかけであろう少年の方を向くと、偶然目が合うが、お互いに会釈をして視線をもとに戻す。
普段親しい相手にしか近づかないこの犬がこうした態度をとるのは珍しい。それこそ自分と前の主の達也くらいしか――
そこまで考えて少女は再び振り返った。今度は視線は交わることなく、少年との距離は広がっていた。
「まさかね」
そう言って少女は己の愚かさを笑う。達也は既にこの世にはいない。自分を助けようとして、代わりにトラックにひかれたのだ。あの少年が達也なはずがない。
少女が笑っていたその時、少年は何かに耐えるかの如く泣いていた。
「ごめんな深雪。でも、今の俺は達也じゃない。だから、さようなら。……好きだったよ深雪」
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