第1章

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「おい。お前」  彼から声がかかると、私の心臓はびっくりして大きな音をたてた。 「わたし? ですよね?」 「ああ。その犬、かわいいな」 「あ、ありがとうございます」  この瞬間、ペット作戦は功を奏したのだ。  動物好き同士は仲良くなれるときいて、私は、それだ! とすぐに飛びついた。  昨日は、近所を徘徊していた野良ネコを、マタタビを使って連れまわした。でも、すれ違った彼には、何の反応もなかった。  思えば、野良ネコが寄ってくるような匂いのする女だと思われたかもしれなかった。そう思うと死にたくなった。  でも、もうどうでもいい。 「ところで」と彼は真顔でいった。「俺の犬を連れてどこへ行く気だ?」 「……」  近くのベンチに結んであったワンちゃんを連れまわしたのは、大失敗だった……。  言い訳を考えようにも、頭は真っ白。 「お、お散歩させてきます」  私は彼の犬を連れて、半泣きしながら歩いた。
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