第2章 伸二の夢

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「おー伸二、ちゃんと残っていたな」 放課後一人で教室に残っていた伸二は、鬼軍曹の意外な優しい口調に驚いた。 「授業中に眠ってしまってすみません」 優しい口調に気味悪さを覚えながらも、鬼軍曹の怖さを良く知る伸二はこの後の展開を少しでも楽にしようと先手を打った。 しかし鬼軍曹の言葉は、伸二の思惑とは全く別だった。 「伸二ー、残ってもらったのはな、そのことじゃないんだ」 「え?じゃ、ほかに何かやらかしましたか?」 鬼軍曹は、今度はある意味予想していた言葉を口にした。 「啓介が春からイタリアに行くことになったぞ」 伸二はその言葉に驚きはしなかったが、内心焦る気持ちを抑えることはできなかった。 啓介は選手権大会で、10得点・3アシスト、さらに得点にはならなかったが、伸二にも何度となく決定機をアシストしていたことが評価され、県の準優勝校とはいえ、イタリアのクラブチームの目に留まったのだ。 一方伸二はCFでありながら、2アシスト・得点なしと目立たなかったためにどのクラブチームからも声がかかっていない。 この程度の成績なら、全国大会で勝ち進んでもお声がかかるのは難しいだろう。 伸二はあんなミスをした自分が性懲りもなく焦る姿を見せたくなかった。 だから焦る気持ちを出すまいとして、とぼけた調子で答えた。 「そうですか、よかったですね。啓介ならどこかしら注目すると思っていました。」 「お前はどうするんだ、もう2月だぞ。卒業まで1か月しかないぞ」 優しく接して奮起を促すつもりでいた鬼軍曹だったが、伸二の腑抜けた応答に、ついいつもの調子が顔を出してしまっている。 「僕には夢を見る資格がありません」 いつまでも過去を引きずっている伸二を見て、鬼軍曹は完全にいつもの調子に戻ってしまった。 「過去の事を聞いているんじゃない!今後どうしたいかと聞いているんだ!」 「・・・・」 伸二の返答もなく静まり返った教室で、自分の大きな声で我に返った鬼軍曹は、 少し調子を戻して、伸二が思ってもいなかった提案をした。 「あるチームが伸二に少しだけ興味を示している。ドイツのクラブチームのセレクションを受けてみないか?」
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