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選手権では全く目立たなかった自分に、少しでも興味を持ってくれるチームがあるとは正直驚きだった。
しかし大方無名のチームだろうと思ながら、伸二は半信半疑で鬼軍曹に確認した。
「ドイツのチームってどこですか?」
鬼軍曹は伸二の反応の鈍さに苦笑いを浮かべながら答えた。
「なんだ、もう少し喜んでくれると思ったんだがな・・・ボルトムントだよ、お前の目標にしてきたクラブチームだ」
(「え、えーーーー!ボルトムントー!!」)
伸二は心の中でうなっていた。その拍子に危うく椅子から転げ落ちそうになったほどだった。
ボルトムントといえば、ドイツの名門クラブの一つで、各国の代表クラスが集い、ホームゲームのサポーター入場者数の平均が、8万人を超えるというヨーロッパでも屈指の強豪クラブだ。
何人かの日本人も所属したことがあり、それがきっかけで伸二も幼いころからボルトムントのファンであり、8万人の大観衆の中でプレーするのが夢だった。
なにしろ小学校の卒業文集にも、「将来はボルトムントに入って背番号10番として活躍する!」と書いたくらいだった。
声に出してはいないが、伸二の心の中はもはや隠しようがなく、完全に目が輝いてしまている。
「おいおい、水を差すようで悪いが、喜ぶには早いんじゃないか?」
今度は、反応の良すぎる伸二をたしたしなめる様に鬼軍曹は言った。
「先方が言ってくれているのは、あくまでテストをしてみたいということだけだ。」
たしかに鬼軍曹が言うように、単にプロになるという事さえ簡単なことではないし、ましてやヨーロッパの名門ともなると競争は並大抵ではないのだ。
なにより致命的な不安材料が伸二にはある。なにしろシュートを打つことができないのだ。これは得点力以前の問題で、選手として正直使い物にならないレベルだ。
そう思い返すと、伸二は、とても自分にできることとは思えなくなってきて、気持ちが一気に落ち込んだ。
すぐに判断できなかった伸二は少し時間をもらうことにした。
「3日後までには連絡しなくてはならん、それまでゆっくり考えなさい」
またと無いチャンスだと思っていたが、なにしろ伸二の状態を良く知っていた鬼軍曹は結論を急ぐのをやめ、特に勧めることもなく教室を去った。
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