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赤く染まる室内、日も落ち易くなった、とは彼の言だ。私は落ち易くなった、と言う表現に笑った。
放課後、寒くなって来たこの時期、行事は数多在るのに、私たちはどこに行くより学校の、この教室にいた。どこかで、寒くなるに連れ別れが近付くことをさみしく感じているのかもしれない。
「結果どうだった」
「C判定。ここまで来て厳しいよねぇ」
私のことを気にしてくれるのは、嫌味でも何でも無く、私のが危ういからだ。彼はAO入試で決まってしまっていた。私だけが危ない。
「そっか……」
彼は複雑な胸中を面に乗せる。気にする必要など、無いのに。机に寄り掛かって腕を組む彼に「仕方ないよ」同じく机に腰掛けている私は笑い掛けた。
私が愚かなのだ。ランクを落とせば良いのに、意味が無いと駄々を捏ねている。高校三年にもなって。だけど後悔はしていなかった。
「私、あきらめてないから」
私は、行きたいところへ行く。行けなかったとしても、無駄だとは思わない。
あきらめない。私の宣言に一瞬だけ僅かに目を見開きつつ、次いで彼は破顔して。
「そっか。そうだな」
「うんっ」
私も相好を崩した。くよくよしていられない。
入試まであとの数箇月。その前にいろいろイベントも在る。もうこの制服で過ごす、彼やクラスメートとこの校舎で過ごす最後の年だ。
「体育祭、がんばろうな」
「文化祭も、楽しみだね」
私たちは笑い合って、日の落ち切らぬ内に帰ろうと、荷物を手に教室を出た。
夕陽はもう、地平線の彼方にその姿を晦ませようとしていて、空も教室も廊下も、藍色に半分片足を突っ込んでいた。
試験まで、卒業まで、あと、数箇月。
【 了 】
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