邪気ちっく

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 世の中では現在、中二病、または厨二病というモノが流行っているらしい。といってもこれ、思春期には誰にでも起こるものなのだとか。  妙にかっこつけたくて急にコーヒーをブラックで飲みだしたり、「所詮、これが世界なんだ……」とか呟いてみたり、「ふっ、どうせお前にはわからないさ……」なんてニヒルに去ったり、難読文字を使いたがったり、程度の差はあれ、そんなことをやってしまう。  成長するにつれてだんだん物事を知り、こんな言動や態度もなくなるそうだ。だが、中には歳を重ねてもそんな風に振る舞う人たちがいるらしい。  特に「邪気眼使い」と自称する人たち。彼らを見る度に、私はいつもうらやましく感じてしまう。  だって彼らには邪気眼などないのだから。彼らを追う機関もいないし、魔法のような力も使えない。彼らが帰るべき魔界だってない。  だから、安心して「邪気眼」を使っていられる。  ため息をついて、私はトイレの個室の中でそっと制服の左袖をまくった。きっちりと巻かれた包帯にはじんわりと血がにじんでいる。  鼓動が速くなる。私は袖を下ろしてぎゅっと強く腕をつかんだ。 「最近……間隔が短くなってきたなぁ」  私の中で息づく「もう一人の私」は、数年前から時おりこうして存在を私に知らせてくる。  「彼女の声」が聞こえてくることもしばしばだ。 『クラスのみんなが嫌い……?』  嘲笑うかのような声に、誰もいないトイレで私は一人呟く。 「そんなことないよ。みんな優しいもの」 『優しいけれど、それは偽りの優しさ。あんなクラス、燃やしちゃえばいいのに』  それを少しでも想像してしまった自分が嫌で、怒気を強めて腕に爪を立てた。 「ふざけないで。そんなこと……っ!」
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