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ふいに、女子のおしゃべりが聞こえた。トイレのドアのすぐ近く。続いてドアがきしんで開いた。
「もう一人の私」が存在を消し、私も息をひそめる。私がここにいるなどと、気づかれてはならないのだ。
「そういえばマナとアキラくん、つきあったんだってー」
「とうとうか! マナ、頑張ってたもんねぇ」
黄色い声で笑いながら交わされる会話を聞き、個室のドアが閉まるところまで聞き届けて私はそっとトイレを抜け出した。
平和な学校だ。何も知らずに、平和な毎日を繰り返している。
廊下を歩きながらぎゅっと握ったこぶしの先に、炎が揺らめいたように見えた。
思わずぱっと手を開く。炎はすぐに消えた。唇をかみしめて呟く。
「私は……私は絶対に負けない。この身体は、渡さない……!」
部屋を掃除していたら見つけた血糊と包帯に、そんなことを思い出した。
わずか二年前の自分は、いったい何をしていたのだろう。しかもこの血糊と包帯、丁寧なことに錠がついた金属の箱に入れられ、蝋(ロウ)で封印までされていた。
引きつった笑いしか浮かべられない。けれど捨てるにはしのびなくて、もう一度箱にそれらを戻した。鍵をかけて大切に引き出しへとしまう。
あまりに痛々しくても、これは大事な私の青春時代だ。青春を謳歌していた私の「記憶」だ。私の大事な「黒歴史」。
話のネタくらいにはなるだろうと微笑みながら、そっと引き出しを閉める。
次にここを開ける時は覚悟しよう。
それからベッドにダイブした私は、枕に顔をうずめて思い切り叫んだのだった。
二年前の自分に、拍手を送ろう。君は立派な邪気眼使いだった。
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