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翌日、朝から校内にはそわそわした雰囲気が漂っていた。女子同士で公然とチョコレートが渡され、「義理チョコ」と名付けられた菓子が男子に手渡される。
「バレンタインとか廃止されてっから!」
これみよがしに言っているのは、まだ一つももらえていない男子だろう。
誰もかれもお気楽な。不敵な笑みを浮かべて、私は一人の男子の席の前に立った。
読書をしていた彼が視線を上げる。
コウキ。学校内で唯一、私の秘密を知る者だ。
「何、チョコでもくれんの?」
「まさか!」
吐き捨てるように笑った。植物のつるを模したリボンでラッピングされた小箱を突き付ける。
「この私が聖なる日を祝うとでも? 貴方にはこれをあげる。チョコレートの力を打ち消すダークマターなの」
「ダークマターって食えないもののこと言うんだけど」
瞬間、じんわりと自分の頬が赤くなっていくのがわかった。
しかし、私に口を挟む暇も与えず、まぁいいや。とコウキは小箱を引き寄せる。
「くれるんならもらっとく」
淡々と返して読書に戻るコウキ。
あまりの呆気なさに、私はしばらくぽかんとしたままその場に立っていた。こんなもので終わっちゃっていいの?
ずくり。左腕に痛みが走る。
思わず腕をぎゅっと握って、私はくるりと振り返った。そのままコウキに別れを告げる。
「ともかく、受け取ってくれてありがとう。それじゃ」
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