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車が何台かまとめて通り過ぎ、その音と光が遠ざかっていく。
座らせた小宮さんの前で突っ立ったままだった俺は、少し歩いたところにある自販機を見つけ、一歩踏み出そうとした。
……が。
「あそこ、行きたいれす!」
シャツを引っ張られ、引き止められる。
振り返ると、立ち上がった小宮さんが、それでも身長差のある俺を見上げて目をキラキラさせていた。
「どこですか?」
「あのお店。ほりゃ、あの信号渡ったところにあるビルの3階」
「……」
ほりゃ、と言われても……。
指を差されたビルを見ると確かに3階に店があり、仄かなオレンジ色の照明と、窓際に数席並んだテーブルとソファがガラス越しに見えた。
ここから見えるその席には一組しか座っていない。
ガラス窓を囲むウッド調の洒落た外装の右下に、『DiningBar mellow』との文字。
「もうお酒は飲まないほうがいいかと思います。送っていきますので、帰……」
「じゃんけん、負けましたよね」
「は?」
「一杯だけ!」
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