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「小宮さん、糸くずが……」
ふわっといい匂いがして、南条さんが片手を私の頭のほうへ上げたのがわかった。
私は驚きのあまり思わず、
「わっ」
と言って首をすぼめ、その手をよける。
「あっ! ホントだ! 糸くずっ。糸くずですね、確かに!」
慌てて自分で取った私は、南条さんと手のひらの糸くずを何度も見ながら、挙動不審に照れを取り繕う。
い、息苦しい。
緊張と恥ずかしさで酸欠になりそうだ。
「…………」
手を戻した南条さんは、相変わらず読めない表情。
微妙な間に少しだけ違和感を感じた気がしたけれど、1階に着いて開いたエレベーターの扉とポーンという音に、ふたりとも視線を外した。
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