side N

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彼は、俺と目が合うと少しよそよそしく会釈をし、それから視線を合わさなくなった。 「じゃあ、課長、南条さんの耳、甘噛みしてくだはい。そしたら戻ります」 「……小宮さん、何言ってんの? 勘弁、そういうの無理だから」 「逆でもいいれす。遠慮なさらずに」 「遠慮とかそういう」 「……んん?」 小宮さんの素っ頓狂な声が響いた。俺は彼女の頭に乗せた手をそのままに、耳元へ口を寄せ、 「小宮さん、戻りましょうか」 と小声を流し込み、なだめるように頭を軽く撫でた。 「…………」 一瞬テーブルが微妙な空気になったが、小宮さんは、 「戻らせていただきます!」 と、満面の笑みで敬礼した。       
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