side N

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「そうですか。私は珍しくないですが」 以前から何度か声をかけられることはあった。 それこそ、彼みたいに若い男から初老の男まで。 「な、な、南条さんは、どっちなんですか?」 「どっち、とは?」 「いえ、どちらとも、でもOKですけど」 「あぁ……」 小宮さんの質問の意図を理解した俺は、横断歩道を渡りきったところで立ち止まり、 「こちらです」 と、“女性”という意味で小宮さんの頭に手を乗せた。 「…………」 すると彼女は何度か瞬きをして、次の瞬間、フッと吹き出した。 「アハハ。一瞬、私のこと限定かと思っちゃったじゃないですか。ていうか、今のいい! ごちそう様でした!」 「……」 彼女が笑って動いたせいで離れた、宙に浮く右手。 ……だから、なんなんだ? この妙な空しさは。
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