3047人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですか。私は珍しくないですが」
以前から何度か声をかけられることはあった。
それこそ、彼みたいに若い男から初老の男まで。
「な、な、南条さんは、どっちなんですか?」
「どっち、とは?」
「いえ、どちらとも、でもOKですけど」
「あぁ……」
小宮さんの質問の意図を理解した俺は、横断歩道を渡りきったところで立ち止まり、
「こちらです」
と、“女性”という意味で小宮さんの頭に手を乗せた。
「…………」
すると彼女は何度か瞬きをして、次の瞬間、フッと吹き出した。
「アハハ。一瞬、私のこと限定かと思っちゃったじゃないですか。ていうか、今のいい! ごちそう様でした!」
「……」
彼女が笑って動いたせいで離れた、宙に浮く右手。
……だから、なんなんだ? この妙な空しさは。
最初のコメントを投稿しよう!