side K

29/35
前へ
/35ページ
次へ
「……」 誰も通らない廊下。 でも、いつ誰が通ってもおかしくない廊下。 動揺と、ど緊張と、ほんの少しひやりとする心。 「……あの」 「……」 「お、怒って……らっしゃいます?」 「……そうですね」 そうですね?  否定を待っていた私は、思わぬ肯定にフリーズしてしまう。 「分母など……」 「はい?」 「増やす必要はないです」 「なーーーーんじょーー!」 へっ!? 長い廊下の突き当たり、トイレへ曲がるコーナーから姿を現した堤課長。 発見! とでも言うような顔で、ツカツカとこちらへと一直線に向かってくる彼は、さも嬉しそうに南条さんの名前を呼んだ。 途端に私の後ろ髪はふっと軽くなる。 まるで魔法が解けたかのように。 堤課長があっと言う間に私達ふたりの目の前まで来た。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2842人が本棚に入れています
本棚に追加