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「……」
誰も通らない廊下。
でも、いつ誰が通ってもおかしくない廊下。
動揺と、ど緊張と、ほんの少しひやりとする心。
「……あの」
「……」
「お、怒って……らっしゃいます?」
「……そうですね」
そうですね?
否定を待っていた私は、思わぬ肯定にフリーズしてしまう。
「分母など……」
「はい?」
「増やす必要はないです」
「なーーーーんじょーー!」
へっ!?
長い廊下の突き当たり、トイレへ曲がるコーナーから姿を現した堤課長。
発見! とでも言うような顔で、ツカツカとこちらへと一直線に向かってくる彼は、さも嬉しそうに南条さんの名前を呼んだ。
途端に私の後ろ髪はふっと軽くなる。
まるで魔法が解けたかのように。
堤課長があっと言う間に私達ふたりの目の前まで来た。
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