side N

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打たれた頬を5本の指でそっとなぞれば、いつかの小宮さんが頭の中で囁きかけてきた。 『南条さん、大丈夫です』 今後絶対に見られないであろう笑顔で、彼女は語りかける。 『私、呪いを解く言葉、知ってます』 呪いなど……。 『“好きだった”“終わった”』 バカげていると知っていたのに。 『それだけでいいんです』 なんで、こんなになるまで、俺は…………。 エレベーターの扉が開き、俺は前髪をクシャクシャにして全て下ろす。 「好きだった。…………終わった」 認めて、終わらせる。 それが容易にできたら、どんなに楽だろうか。 エントランスを出ると、降り始めたばかりのような霧雨が視界をぼかしていた。 音のないその雨の中を、俺は歩いて帰った。            
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