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駅近くの川にかかる橋まで来て、私はその真ん中で足を止める。
光を反射してキラキラと揺れる水面へ目を落とすと、私の影もぐにゃりと曲がり、なんとなくそれがアルファベットのNを連想させた。
「N……」
以前目が覚めたら手の甲にペンで書かれていた“N”を思い出す。
そして同時に、それに関する夢の前後も。
「…………」
ハーーー……と自己嫌悪と羞恥心の深いため息を吐き出す。
私……キスした、確かに。
南条さんの車の中で…………してるや。
絡まった毛糸をゆっくりほどいていくように、私は少しずつ確実に記憶を手繰っている。
ほろほろと頼りなくほどけていくそれは、じわじわと私をいたたまれなくしていって、思い出すことをためらってしまうほどだ。
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