side N

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仕事始めの昨日、約1週間ぶりに見た小宮さんは痩せて見えた。 「南条さん、美味かったっすね、今の店。あとは定食のご飯おかわり自由だったら言うことなしだったっすけど」 おそらく俺のせいだろう。 自分だけ夢だと片付けられず、ただの自己満足で記憶を吐きだした俺の。 『悩めばいい』なんて悪趣味な文句を言い放った、大人げない俺の。 「でもレディースセットにはデザートついてるのに、なんで定食にはついてないんすかね。そもそもレディースセットって、男も頼んでいいのかなぁ」 横断歩道を渡りながら、スーツの上に羽織ったコートのポケットに手を入れる。 細長いベルトの皮の感触が指を掠めると、頭上に広がる寒々とした冬の空と同じようなわびしさが胸に滲んだ。
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