2788人が本棚に入れています
本棚に追加
『いいんですか? 辻森さんが本気出しちゃっても。あのおじさん、意外とやり手ですよ?』
時峰さんが脳内でニッと笑う。
「……だから、……今更……」
俺はそう呟きながら、彼女のポケットにでも入れておこうと、名刺を握る手をゆっくり小宮さんへと伸ばした。
「…………」
今更…………。
呟きとは裏腹に彼女まで行きつかなかった俺の手は、その内にある名刺を緩く潰す。
久々に触れた彼女の感触と体温がいまだ残る手と指は、悲しいくらい正直だった。
「小宮さん……」
閉じられている目からひと筋残っている涙の跡は、何を表しているのだろうか……。
「……好きです」
名刺が手の中でいっそう曲がったのを感じながら、俺はうなだれた頭をゆっくりと上げ、部屋を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!