side N

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『いいんですか? 辻森さんが本気出しちゃっても。あのおじさん、意外とやり手ですよ?』 時峰さんが脳内でニッと笑う。 「……だから、……今更……」 俺はそう呟きながら、彼女のポケットにでも入れておこうと、名刺を握る手をゆっくり小宮さんへと伸ばした。 「…………」 今更…………。 呟きとは裏腹に彼女まで行きつかなかった俺の手は、その内にある名刺を緩く潰す。 久々に触れた彼女の感触と体温がいまだ残る手と指は、悲しいくらい正直だった。 「小宮さん……」 閉じられている目からひと筋残っている涙の跡は、何を表しているのだろうか……。 「……好きです」 名刺が手の中でいっそう曲がったのを感じながら、俺はうなだれた頭をゆっくりと上げ、部屋を後にした。          
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