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「……」
三浦さんの後ろ、フロアのほうの通路から歩いてきた人影。
それは今思い出していた彼女だった。
小宮さんは俺の姿を見つけると、安堵の次の瞬間にはもう、緊張をあらわにする。
それは今までと変わらないことだけれど……。
「あ……、お取込み中、すみません。今、Y商事さんから南条さんへお電話があって、折り返します、って伝えてありますので」
「あぁ、はい。わかりました」
他人にはわからないであろう隔たりが、確かに俺と彼女の間に一枚追加されていた。
今までそれを恐れていたからこそ明かさなかった事実。
それを彼女に打ち明けた途端に、やはり予想どおりこうなった。
互いに触れないその一枚の隔たりは固くて厚く、視線すら乱反射して交わらない。
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