side N

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6日後。 「あれ? 南条タバコ吸うんだったっけ?」 「いえ、ちょっと空が見たくなったので」 「……そのセリフ似合うやつ、お前以外に見たことねーな」 ビルの屋上には、物干しと長めの簡易ベンチがひとつ。 昼休憩の時間とはいえ真冬の屋上に寄りつく者は少なく、先客だったのは羽島課長だけで、彼はベンチの右端に座りながらタバコをくゆらせていた。 今日は風も少なく天気もいいため、寒さよりも心地よさのほうが勝る。 「課長こそ、吸うんですね」 俺はベンチの左端に腰を下ろして、下で買ってきた缶コーヒーの蓋を開ける。 「たまーに。いいことあったときとか、逆に嫌なことがあったときには吸いたくなる」 「どっちですか?」 「さぁ」 そう言いながら口角を上げる課長を横目にコーヒーを飲み、俺は、 「三浦さんとうまくいってよかったですね」 と言った。
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