2889人が本棚に入れています
本棚に追加
尋常じゃない胸の高鳴り。
説明しがたい不安と焦り。
そして顔を上げてようやく彼女の表情を見ると、今度は切なさが移ってきて胸が押し潰されそうになった。
「南条君を……知ってるんですか?」
「はっ! えっ、ええっと、はい! 姉が! 同じ職場のようで」
それを聞いた彼女は、あーちゃんが指差した私のほうへとゆっくりと顔を移す。
こ……これは、儚げな表情も手伝って、いっそう美人に見える。
こんなとこでレジを打ってちゃいけないほどの美しさだ。
「本当ですか?」
今にも涙を落としそうな彼女の瞳に、私はまるで場違いな映画のワンシーンに紛れ込んでしまったかのような気持ちになった。
ここで、“違います”と嘘を言う権利や勇気があっただろうか。
私は、乾いた口を開け、
「…………はい」
と、消え入りそうな声で答えた。
最初のコメントを投稿しよう!