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「小宮さん」
「だ、大丈夫ですので、あの」
「小宮さん」
南条さんの手が私の腕を握って、かろうじて作ったバリアを取ろうとする。
私は頑なに力を入れて、体を丸めるように腰を引き、その手を引き剥がそうと足掻く。
まるで殻を取られまいとするエビだ。
「だ、大丈」
「そこまですると、大丈夫じゃないの気付いて、って言ってるみたいですよ」
「……っ!」
その言葉で力がふっと抜けてしまった。
観念した私の腕を下ろさせた南条さんが、静かに私の顔を覗き込んでくる。
目が合った。
合ってしまった。
本当に久しぶりに。
唇が震えて、鼻までヒクヒクなってしまう。
私は、もう逃げも隠れもできなくなって、
「だ…………大丈夫じゃ……ないです」
と、なんとも情けない声を絞るように出した。
出尽くしたんじゃないかっていう涙がまた滲んで、瞬きをしたらゆっくりと頬を伝って落ちた。
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