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「……」
「……」
どのくらい、そうしていただろうか。
私を包む南条さんの腕の力が少し緩んで、ふたりの間に僅かな隙間が作られた。
頭を胸に預けながら、南条さんの心音にいくぶん落ち着きを取り戻してきた私は、ふと、ポケットに入れたままだったメモ用紙のことを思い出した。
「南条さん……あの……これ」
それを取り出して見せると、南条さんは何も言わずにほんの少し顔を傾ける。
「すみませんでした。ファソラに行ったとき……渡してって頼まれてたのに……渡せなくて。い……今更過ぎますけど」
「あぁ……彼女と会っていたんですね」
「はい。偶然が重なったんですけど、たまたま妹がその人のことを知っていて」
顔の前に持ってきたその紙を受け取り、
「連絡先ですか?」
と聞いてくる南条さん。
「……です」
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