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それを察したのかどうなのか、背中をそっと支えてくれた南条さんは、傾けた顔と唇をゆっくりと離し、虫の息の赤面女をようやく解放する。
「出張後、また改めて」
涙の滲んだ目尻に軽く唇を落とした南条さん。
資料棚にべったりと貼りついたままの私を覗き込むようにそう言うと、普段となんら変わらない鉄仮面でこの場を後にした。
「…………」
ズルズルと床に溶けていくように尻もちをつけば、不整脈か呼吸困難か、息と心拍の乱れが治まらない。
……また、改めて?
改めて……なに?
…………なに?
「………………なに?」
資料室に、蚊の鳴くような声が響いた。
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