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その言葉に、ようやくコートから南条さんへと視線を戻した。
覗き込む顔を一層傾け、幾束か無造作に流れる髪、より主張される首筋や鎖骨。
なにより、睫毛一本一本が鮮明に見えるほどに近い顔が、その熱を帯びた瞳が、コートのことなんてどうでもいいことにするくらい、私のただでさえ忙しい心臓をぎゅっと握る。
「触っていい?」
「……っ」
心臓が、聞いたことのないような音を立てた気がした。
火が燃え移ったかのように全身もれなく熱く赤くなった私は、「ど……どうぞ」と、この距離じゃなきゃ聞こえないようなか細い声を返す。
ふわりと、南条さんの大きな手が、私の頭を髪の上からなぞるように覆った。
髪を少しすくってはサラサラ落として、その様子をしばし眺めた後で、今度はゆっくりと頭を撫ではじめる。
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