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その可愛さに顔を近付けて唇を落とそうとすると、それよりも前に俺の前髪に手を伸ばした小宮さんが、そのままさらりと髪を撫で、近付けた俺の頬へと輪郭を辿った。
「……そっかー……私、触っていいんだ……南条さんに」
目の前で満開の笑顔を咲かせた彼女は、そのまま手をぱたりと下ろして、また目をゆっくり閉じる。
そしてまた、寝息を再開させた。
「……」
言葉も動きも奪われ、しばらく呆然とする。
今まで感じ得なかったものが胸に迫り上がってきて、涙の予兆さえ覚えた俺は、もはや口付けどころではなくなり、口を手で覆った。
『お前、本当の愛を知らないのか。不憫な色男だな』
あれはいつだったか。
堤課長に言われた言葉。
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