side N

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「……」 こういう時のリアクションなど、持ち合わせていない。 彼女は女性らしくて出来た人だが、どこか掴みどころがない。 計算高いのか天然なのか、判別に迷う。 俺はとりあえずその件については言及せず、 「家は近くだということでしたよね? カバンの中に折り畳み傘を入れていたので、これ、よろしければどうぞ。私はタクシーで帰るので、これで失礼します」 と言ってカバンの中から紺の折り畳み傘を取り、差し出した。 「え? あ……ありがとうございます。て、あの、南条さん」 立ち去ろうとしていた腕に、彼女の指先が触れて呼び止められた。 整えられ、キレイに彩色された爪。 その光沢がやたらと人工的に感じる。
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