side N

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「なにか?」 「恋人いないって、本当ですか?」 「……」 ……堤課長か。 「本当です」 「そうですか、了解しました。それじゃ、ありがとうございました。傘もお借りしますね。次回お会いした時に返します」 彼女はさらりと“次回”という言葉を用いて会釈し、俺の傘をさして、湿ったコンクリートに靴の音を響かせながら帰っていった。 傘を貸したのは自分だし、恋愛というものについて前向きに考えてみようと思ったのも自分だ。 『動き出すためのゲージが溜まらないというか……』 この前、夜の公園のベンチで小宮さんが言っていた言葉を思い出す。 理由は違えど、俺も同じだ。 これだけ面倒だと思っていても、いつか現在完了形になる日がくるのだろうか……。
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