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約束…………。
ちょっとだけ気になって南条さんのほうをチラリと見ると、彼は部長が資料室から持ち出してそのままにしていた資料の山を運んでいた。
背広を脱いで、ネクタイを肩にかけて、腕まくりをして、重いものを持つ。
それだけで、なぜ私の唾液は分泌過多になるのだろうか。
そして、以前の私だったらそれだけですんでいただろうに、加えてこの胸の痛さよ。
土曜日に見たサラさんとの光景が目に焼き付いていて、思い返すだけであの日の雨が私の心をずぶ濡れにさせる。
あー……、厄介だな、自覚って。
報われない恋なんて映画や小説で見る分には美しいけれど、実際はひたすら無様なだけだ。
「……」
南条さんには、タイミングが悪かったこともあって白菜を渡していない。
失恋の痛手でそんな話なんてできなかった。
もう忘れているだろう。
……忘れていることにしよう。
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