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速人が火を付けた部屋から煙が吹き出し、建物内に広がっていた。もう少し時間が経過すると、煙だけではなく炎が広がるだろう。そんなに長くこの場所にいるつもりは速人にはない。
階段から一階を覗き込むと、ニコたちが入ってくるのが見える。
速人は彼らを呼び寄せる。ニコたちはすぐに階段を駆け上がってきた。
茜と由紀の姿を見て、ニコが速人に頷く。達也は右手を挙げ、速人にハイタッチを促す。軽く速人はそれに応じ、お互いの掌が音を奏でる。
「どうする? ヘリに向かうか?」
ニコが速人に向かって小さな声で耳打ちした。
ヘリが屋上にあるのはわかっている。しかし問題が一つあった。
車と同じくヘリも鍵が必要である。付けっぱなしになっている可能性もあるだろう。この島では盗難の恐れは無いからだ。戦闘であれば、敵に奪われる可能性も考慮するだろうが、シフターにとってはこれは狩りなのだ。今までは一方的であったのだろう。皮肉にもそれは速人たちにとって有利に働いた面もあった。過去に一度でもこれほど抵抗した人間がいたのならば、もっと警戒心があったに違いない。
このまま時間が経てば、この建物に残りの敵が集まってくることは間違いない。あまり時間の余裕はないのである。
その時、建物の外から車のエンジン音が聞こえてきた。速人はそっと覗き見るように窓から外をうかがう。白いワゴンが停車していた。ドアが開き、ほぼ同時に二人の人影が見える。
一人は若山だった。もう一人の顔は知らない。外に倒れているたくさんの死体を見て二人は驚いた様子だった。知らない顔の男が若山から何か言われ、懐からスマホを取り出しているのが見える。
速人は深く、息を吐いた。
どうやら、すんなり脱出とはいかないらしいな。
周囲を見渡し、速人は素早く考えをまとめた。この様な状況における速人の脳は、例えば女性と二人きりでいる時のそれとは全く別物である。
「ニコ、カニの真似をしよう」
ニコはそれを聞き、最初は困惑した表情だったが、説明を聞くとすぐに納得した。
ギャンブルの要素が多少はあるが、この際は仕方がない。全員に向かって、手短に考えを話す。
さて、もう一合戦だ。
速人は心の中で呟き、準備をはじめた。
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