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若山は建物の窓から煙が吹き出しているのを見て舌打ちした。その窓から炎も見える。すぐに建物全体に広がるであろうことは予想できた。
なんたる不始末なんだ。まさか自分が責任者であるこの研修において、こんな事態になるとは想像もしていなかった。しかも自分が来ている時にこんなことになるとは。屋上のヘリのことが心配になる。
隣に立っているヘリのパイロットに向かって逸見に連絡するよう指示をする。
「教官たちや逸見は一体、何をやっていたんだ?」
今はそばにいない人間に向かって苛立ちながら言葉を放った。熟練したシフターをあらかじめ人間たちの中に忍ばせていた。教官として研修生を採点しつつ、研修が円滑に進むように管理していたはずなのだ。それがこの始末だ。
たくさんの倒れている死体を見て、若山はさらに暗澹たる気持ちになる。この分だと全体の被害は半数を超えるだろう。
もちろん今までも人間は無抵抗ではなかった。毎回、数名がこの研修で死亡する。この様な有利な状況下で人間に殺されるような者は必要ないのでそれは問題ではない。
最終的には約半数が合格し、人間社会に出ることを許される。不合格者は再び、あの場所へ戻されることになる。あの何もない不毛な場所へ。
今回の合格者は少ないだろう。逸見にも責任を問わなければならない。もちろん責任者である自分にも罰は下されることは間違いない。今まではうまくやってきた。人間社会にうまく溶け込み、研修所の所長にまで出世した。これでもう出世は見込めないだろう。
最初からこの研修にはトラブルがあった。
講師の一人が人間の四人組に襲われたのだ。その講師は若く美人な姿をしていたので、バカな若者を無駄に興奮させたのであろう。その後は逸見の命令で中年のごくふつうの容姿の女性に〝変わって〟いた。
そしてその四人組を始末したのだが、丁度よいということでその四人を教官に割り当てた。当初の予定通りにしておけばよかったのだ。
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