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酒場は、旅の情報を集めるのに格好の場所。
お金がほしい時だって。仲間がほしい時だって。
いつだって、ここにはたくさんの人が溢れてる。
噂話は、尾びれをつけて。
背びれに、鱗になんでもこいや。
「ずいぶん古い地図だね」
アーシェを覗き込んだ酒場の主人が笑った。
カウンターに広げた地図は確かに、もう茶色く煤けていて、縁もところどころ破れていて、地名なんていったら、かろうじて読めるくらいで。
古い地図…って言うよりは、もはや、「…それ、地図?」って聞きたくなるなるくらいボロボロで。
そんな地図を必死に見つめて輝かせた目を、アーシェは酒場の主人に向けてニヤリと微笑んだ。
主人はこりゃ面白いといわんばかりに、アーシェの地図に目を配る。
「一体どこの地図なんだい?」
目を細めたり、大きく見開いたり。
まったく検討がつかないような顔で、主人はアーシェの顔と地図を必死に見比べた。
「地図をみてるんじゃないよ」
笑いながら、アーシェが主人と目を合わす。
カウンターに軽く肘を着いて片手を頬に添えると、もう片方の手の指先で、得意げに主人を手招きした。
その仕草が、あまりにも愛らしくて、主人が思わずプっと噴出した。
「じゃぁ、何を見てるんだい?」
笑い声をこらえて、グラスを拭きながらアーシェの瞳を見つめ返す。
吸い込まれそうなブルーの瞳が、光を集めて輝いている。
アーシェがまた、ニヤリと笑った。
「夢さ」
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