神様の塔

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もう、ずっと昔だけど。 人は神様に続いてる門を探して、高い高い塔をつくったんだ。 雲が、手にとどくくらいに高い機械仕掛の塔。 「このへんかなぁ」 ニナが、息を切らして反重力装置のスイッチを握った。 「っはぁ。やばい。もうやめよう、ニナ…」 目下に広がる文明世界。 空の星程の夜景。 失敗したら、死ねる。 「ツカサも、昨日飛んだんだよ」 無機質な低音で、装置が鳴く。 通過儀礼とは、このことか。 「俺、マジで高所恐怖症で、ちびりそう」 誰が始めたのか、このくだらない根性試し。 「いくよ、ケント。飛ぼう」 満月が、下にある。 「ちょ、まてっ!」 反重力装置の最大出力効果時間は三十秒。 地面にたたきつけられる前に起動する。 ニナが、両手を広げた。 翼のように。 笑ってやがる。 「みて。弱虫」 肩についた髪が、後を引くように舞い上がった。 「ニナ…っ」 思わず手を伸ばす。 揺れている街明かり。 微笑んで、手を差し出すニナ。 ゆっくりと、落ちて行く。 鳥の羽のように、服を羽ばたかせた。 「くそっ!」 目を固く結んだ。 最後まであがく様に残った指先が弾かれて、ふわりと浮かんだ体中が痺れた。 『飛び方って…あんた、人に歩き方とか、きいちゃうわけ?』 『いや、全然違うだろう』 『全然違わない。飛んでみれば覚える』 自分でも、情けない程の悲鳴は、すぐに歓喜の声にかわった。 舞い上がる。 紺と、オレンジの世界。 なんだ。 ここある。 三十秒。 スイッチを一つ押せば、体は重力に反発して落下を止める。 ここにあったんじゃないか。 ----------------------神様への門。 バンっ!と、大きな音が耳をつきさいて、彼の世界は暗転した。 その門の向こうへと。
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