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どうして、こんなことになったのか。
「俺はね。シオンをちゃんと抱きたいと思っているんだよ?それは、君も知っているはずだ」
ソファに押し倒されたまま、シオンはうつむいて震えた。
東雲に告白されてから数ヶ月。「そろそろ、ちゃんと君の答えを聞きたい」そう言われてシオンの誕生日にやって来たホテルは、最上階のスイート・ルームだった。
「貴方のこと、ずっと知りたいと思っていた」
でも、わからない。甘くて、苦いような名前が付けられないこの感情を持て余しながら、今、シオンはここにいる。
「気にとめてくれていたんだ。光栄だね」
「......こんなことされれば、誰だって気にしますよ」東雲の目を真っ直ぐに見つめながら言った。
この人は手段を選ばない。東雲の言葉に耳を傾けてはいけない。
なぜなら、誘惑されてしまうから。
対処法は耳を貸さずに、真っ先に逃げることだ。そう思うのに......
「看病している時に思ったんだが、君は俺に触られることには抵抗しないんだね。少しは懐いて貰えたのかな?」シオンの髪をいじりながら、東雲はクスリと笑った。
「あの時は、看病して頂いてありがとうございました」
この手を取ってはいけない。好きなはずなんてない。そう思うのに、自分の心さえ制御できない。
シオンの葛藤を見透かしたように東雲は笑った。
「本心がわからないなら......じゃあ、これはどうだい?」
手をひかれて東雲の胸元に押し当てられる。
「・・・・嫌いじゃない」
「それが、今の君の気持ちだ」
「恋するのがこんなに苦しいとは思わなかった」
組み敷かれた身体を愛撫されながら瞳を閉じる。
静寂があたりを覆い尽くし、お互いの心臓の音が聞こえた。
穏やかな表情を浮かべながら慈しむように抱き合っている東雲に対して、切なそうな表情でシオンは小さく首を横に振った。
「人を好きになるのに理由なんて要らないさ。
君も身を焦がす、その感情を持て余しているのだろう?」
「しののめ、さ」
最後まで言えなかった。
蹲るような姿勢で、そっと口づけを交われる。
「今だけは、忘れることだ。綺場家の跡取りだという事実も、その責務も」
東雲は、内緒だと言わんばかりに口の前で指を一本たててみせた。
香水の香りとアルコールの味がする舌に翻弄されて、身を焦がす。
遠のいていく意識の中、溶け合うかのように全てを委ねるキスをした。
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