子猫が嫌がる

7/11
前へ
/15ページ
次へ
「う・・・」 まだ眠り足りない。そう思うのに、太陽の光が眩しい。 ぼんやりと目を覚ましたときは、正午を過ぎていた。慌てて体を起こすと、繭に包まれているように、何層にも折り重なったベールがシオンの手に触れた。 「・・・・・」自分の姿を鏡で見て驚いた。 鏡に映っているのは、白いベールで顔を覆った花嫁姿の自分だ。 波打つように3段のレースに覆われた、純白のウエディングドレス。 そんなシオンを満足そうに見ている東雲は、白いタキシードを着ていた。 「こうやって見ると、まるでカップルが初夜を迎える瞬間だと思わないか?」 東雲がベットの横に座りながら、シオンに手を差し伸べる。 いつの間にか眠っていたベッドの周りに、バラの花弁が散りばめられていた。 ・・・・うん。これは夢に違いない。そう思って顔をつねったが、痛い。 ズキリと鈍い痛みが走った。まだ身体に昨日の疲労が残っていて、 今はハネムーンではなく、事後なのだと、頭を抱えたくなる事実を思い出した。 だが現実逃避する前に、一つ確認しなければいけないことがある。 「事情を説明していただけませんか? ......できれば今すぐに。」 ベールで隠れているが、今ならシオンの目に浮かぶ、怒りの青白い炎が見えるかもしれない。 ドレスを脱ぎ捨てようと、背中のチャックに手を回した。 「コルセットで、後ろからキッチリ締め上げて着せたからね。  だから、君一人では脱げないよ? 胸だって、ちゃんと詰め物を入れておいたからね」 悪魔のようにニッコリ微笑む東雲を睨む。 シオンの怒りなんてどこ吹く風という感じで、東雲はチラシを手渡した。 「はい。これ読んで。14時に予約してあるから」 ”結婚式 フォトウェディング 本物のチャペルで記念撮影しませんか? 衣装レンタル・ヘアメイク・撮影込 花嫁の笑顔を100回、撮影いたします ” …… チラシに書かれた内容を読んで、その場で卒倒しそうになった。 「今からそこに行くからね」と言われてシオンの怒りが爆発した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加