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「妻は風邪で声がでないので、俺に言ってください」
撮影スタジオの控室で、東雲はヘアメイクの女性に向かってニッコリと話しかけた。
「綺麗な奥様ですね。」「ええ。自慢の妻なんです。」
・・・よくも、これだけ嘘が言えるものだ。
「声でバレるから、撮影中は決して喋ってはいけないよ」
と東雲に念を押されて、しぶしぶ黙って聞いていると呆れるぐらい彼は饒舌だった。
いわく「妻は病弱で生育不良。入退院を繰り返していたが、奇跡的に回復した」とのことらしい。
「雪のように白くて化粧映えする肌ですね」目の前のヘアメイク担当の女性に言われて
逃げるわけにもいかずに、拳をぎゅっと握りしめて我慢する。
化粧台の前で、ファンデーションが塗られていく。
「・・あの、奥様の首筋に跡が残っているので、隠しておきますね。」
「ああ、そのままで結構です。俺たち、できちゃった婚なので」
カアアと頬が赤く染まったシオンの横で、東雲は満面の笑みのまま、サラリと問題発言をした。
デタラメ言うのも、いい加減にして欲しい。喋れないかわりに東雲の手を、思いっきり引っ掻いた。
かなり強く爪を立てたのに、彼は眉一つ変えていない。大した役者だとシオンは思った。
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