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春には満開の桜の下でお喋りにも花を咲かせ、夏には木陰で爽やかな風にひとときのやすらぎをもらった。
爽やかだったはずの風が冷たさを増すと、誰もが教室や部室に入り浸り、なかなか外に出ようとはしなくなった。
それでもこの秋の到来を待っていた僕は、大好きなセンパイをいつもの場所で待っている。
食欲の秋、読書の秋、ダイエットの秋だなんて言うクラスの女子もいるけれど、僕にとってはセンパイとの秋だ。といっても、一年中僕の中ではセンパイでいっぱいだけど。
ひと気のない廊下を通りすぎ、中庭へ通じる戸を開けたら目の前に見事な桜の木。今は紅葉の見頃。赤や黄色の葉が時折はらはら降ってくる。
桜の隣に、真っ赤なもみじがある。並んで植えられた木々は先生たちからは"春と秋の兄弟"だなんて呼ばれていた。桜は春が見頃で、もみじは秋が見頃だからだそうだけど、僕からしてみれば桜も秋の主役だ。
暖かな日差しにやわらかな桃色の桜も素敵だけど、僕は濃い色をした葉が地面にも頭上にも広がる秋の桜も好きなのだ。
全部、センパイの受け売りだけど。
桜ともみじの真ん中で、センパイを待つ。
……ほら、来た。
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