5人が本棚に入れています
本棚に追加
仲井優介の視界に白い火花が散った。
研究所勤めの彼にとって暴力沙汰は未知の世界のことだ。しかもここは人目につかない路地裏。そこの中華料理屋からは残飯混じりのごみ袋が大量に積まれ、黒い毛並みの猫が塀の上で仲井を見守っていた。
まったくついていない。仲井は苦い思いを噛み締める。朝寝坊して近道のために路地裏の道を通ったら、まさか不良に絡まれるなんて。それも問答無用で顔にグーパンをかましてくる、上等なやつだ。
「金だしゃ解放してやるっつってんだるぉ?」
強面の不良が壁に寄りかかって立っている仲井に向かい合い、仲井の顔の横の壁に手をついた。巻き舌の言葉で獲物を威嚇する。
「すみません・・・・・・持ってないんです・・・・・・ほんとです」
間抜けなことに仲井は遅刻に慌てて財布を家に忘れてしまったようなのだ。
「財布もたずに外に出かける社会人がいるわけねぇだろうがぁー!」
脇を固める不良が腕を組んで叫んだ。実際その通りである。不良の一人がなだめるような笑顔で仲井に近づく。
「まあまあ、少しはこの人の話も・・・・・・聞いてやろうというと言うとでも思ったかゴルァー! 安心してんじゃねえぞゴルァー!」
いきなり不良はキレて怒鳴った。もうやだこの人たち、と仲井は胸のなかで泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!