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向かい合う窓
梅雨の晴れ間に、換気で家中の窓を開けて回った。
居間に仏間、玄関、風呂場、台所。自室に廊下、後は…就職を機に一人暮らしを始めた兄の部屋の窓も開けてしまおう。
普段は入らない部屋に入り、西向きの窓に手をかける、
その折に、隣家の娘さんと目が合った。
部屋の間取りは知らないけれど、兄の部屋と隣家の一室は、向かい合う形に窓がある。だから時には、こうして隣人と窓越しに対面することもある。
ただ、今現在、それはありえないことなのだけれど。
隣の家には一人娘がいる…いや、いた。
近所でも評判のかわいい子で、顔を合わせると笑って挨拶をしてくれるいい子だったけれど、今年の春先に事故に遭い、帰らぬ人となった。
最愛の娘を失った悲しみにお隣さんは打ちひしがれ、一時は家を手離すことも考えていたようだが、結局、娘さんの思い出が残る家を売ることができず、だけどここで暮らすのも辛いと言って、今は心の療養を兼ねて、奥さんの実家近くで暮らしている。
だからお隣には、娘さんは無論、住人自体がいないのだが…。
突然天国へ行くことになっちゃったから、まだ気持ちが事実に追いついていないのかな?
キミがそこにいても怖いとは思わないけれど、できたら早く天国に行って、また可愛い女の子に生まれ変わった方がいいと思うよ。
そんなことを思いながらもう一度隣家を見る。
完全に閉ざされている筈の、隣の家の窓の向こうで、何かの返事のようにカーテンが揺れた気がした。
向かい合う窓…完
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