第1章

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その日、午後五時二十五分頃 、とあるスイミングスクールのプールサイドで、白のスマートフォンが軽快な音楽を鳴らし始めた。スマートフォンの持ち主である雪は、現在絶賛水に浸かっている。プラスチック製の長椅子の上に置かれているそれを、同じくそこに座っている少年、幽幻は手に取った。恐らく『御相談』の電話であろう、そう思いながら通話ボタンを押す 「御電話有難うございます。どのような御要件でしょうか?」 ビルの受付のお姉さんの様な、できるだけ柔らかい印象を出せるよう努める。まあどれだけ優しく言おうと、変声機能により、向こうには低い男の声しか聞こえないのだけれども。なので雪曰く、余計に柔らかい感じ、相談しやすい雰囲気作り、というのが重要になってくるらしい 《あ、あの、チラシ、見て……相談を…》 少し長い時間かけて、つっかえながらそう話す男の声が聞こえた。恐らく間違い電話や悪戯電話の類ではないだろう。そう判断した幽幻は、緊張か、恐怖か、震えて上手く話せない電話の相手にゆっくりと訊ねた 「コードはお分かりになりますでしょうか?」 《あ、え、っと、あ、コー、コードは…コード、ホワイトです》 コード・ホワイト、つまりは緊急性が高くない案件。やはり相談案件で間違いないようだった。畏まりました、そう言おうと思った時、とんとん、と肩を叩かれる。振り向くと先程まで泳いでいた雪が、濡れた水着姿のままでそこに立っていた。時間を見ると時刻は午後五時半になっていた。成程、上がる時間だったな、と納得していると、雪が口パクで『仕事ですか?』と聞いてきたので、幽幻は頷くとそのままそれを手渡した。スマフォが濡れるのも気にせず、雪は少し嬉しそうにこう言った 「畏まりました。件の御相談でございますね。どうぞお話して下さい」
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