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それでも紅蓮は、一度決断したら、行動が早かった。
「会いたいから、会いに行く」と、今すぐさっさと酒場を出て行こうとして、親父に待て、と呼びとめられた。
「なんだい?
勘定なら、支払ったし。
釣りなら、柊の情報代だからいいよ?」
首を傾げる紅蓮に酒場の親父は肩をすくめた。
「お前さん。
ここに来るまで、旅芸人の一座の馬車に揺られて来た言ってたな。
ろくな雨具を持って来て無いんじゃないか?」
「まあね、街中では雨具なんて要らないし」
この季節は、人通りが多いので、店屋が軒を連ねて庇(ひさし)を
長く伸ばし、道行くヒトビトが雨に濡れることはない。
けれども、森は違うだろう、と酒場の親父は言った。
「森に入るのに、雨具を持ち合わせていないと、キツイ。
ヘタに濡れると風邪をひくぞ。
コレは、古いからタダでやる。持って行け」
「なんだ、ずいぶん気前がいいな」
親父が、藁(わら)で作られた、みの(レインコート)と笠(かさ)をつぎつぎと手渡して来た。
驚いて紅蓮が目を見開けば、酒場の親父は、ふと笑う。
「なに、柊を心配してんのは、一人だけじゃないってこと。
それに、紅蓮。
お前さんの顔、去年の武芸大会以外の、どっかで見たような気がしてなぁ。
もし、本業が旅周りの有名な芸人かなんかだったらな。
ここで恩を押し売りしとけば、帰りにでも、ウチの店で得意技を披露してくれるんじゃないかと思ってな」
「うぁ、ちゃっかりしてるなぁ」
「あはは~~」
なんて。
酒場の親父は、楽しそうに笑い、紅蓮も彼の好意を素直に受け取った。
……のだが。
現実っていうシロモノは。
そう、それぞれの思惑通りには、動かないもんだった。
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