二章

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 藪から銀色の塊が、ぴよん、と紅蓮めがけて飛び出して来た。  体長は、丁度、六尺(百八十センチ)ほど。  いきなり出て来たその生き物に、一瞬、紅蓮はぎょっと身を引いたが、その姿に力が抜ける。  確かに、身体の長さは、紅蓮の身長と同じか、少し超える大きさだったけれども、それは長すぎる耳と、ふさふさの尻尾を合わせて、の長さだ。  身体だけなら、せいぜい二尺(六十センチ)ほど。  まるで、耳の長い猫のような、もふもふの毛皮に、赤いくりくりとした目がウサギのぬいぐるみのようで。  それ、を表現する一番適切な言葉は……『可愛い』。  今まで、紅蓮が一度も見たことが無い生物だった。  見た目、あまり人に危害を加えそうなシロモノではない。  紅蓮は、一応まだ剣をすぐ抜けるように構えたまま『それ』が、ただの動物が、妖なのか考えあぐねていると、そいつが鳴き声をあげた。 『おい、そこな子狸(こだぬき)!  吾(われ)を助けよ!!』 「は? こだぬき……って?  もしかして……オレ!?」  紅蓮を子狸呼ばわりしたそいつの鳴き声は、まるで、ヒトの声のようだ。  確かに雨具の、みの、笠つけた紅蓮は、街で土産物屋に並んでいる狸の置物に似てなくもないだろうが、失礼にもほどがある。  普通の人間に言われれば、怒って良い状況だが、思いがけないモノから、思いもかけないことを言われて、紅蓮はただ驚いていた。  そいつが、返事代わりに、すぽっと腕の中に飛び込んで来てようやく紅蓮は我に返る。  助けを求めて自分の懐に飛び込んで来た物を見て……ため息をついた。  なんだ、この軽い……可愛い生き物は。  言葉をしゃべる辺り、多分……普通の動物の類いでなく、妖、と呼ばれるもの……なんだろうが。
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